アイドル心中
3次元のアイドルにハマっていた時期があった。主に48グループ、その中でもSKE48にハマっていた。
その中でも特に好きだった子が一人いる。いわゆる「推しメン」。
いつから彼女に惹かれ始めたのだろう。もう思い出せない。とにかく彼女を追い続けていた。
彼女がSKEを卒業したのは確か2014年。卒業には2パターンある。卒業した後も芸能活動を続けるものと、そうでないもの。彼女は後者だった。たしか大学受験が理由だったかな。
この場合、オタクにとってアイドルの「卒業」とは、「死」を意味する。
昨日まで当たり前にライブをしたり、握手会をしたり、ブログを書いたりしていた彼女が、この世に存在しなくなる。それはとても残酷なことだ。当時はそう思っていた。
結局、卒業をきっかけに私はSKEどころか、3次元のアイドルを追うことを辞めてしまった。アイドルの「死」に耐えられず、オタクも死んでしまったのだ。
先日、当時の友人から久しぶりにLINEが来た。彼は今でもアイドルオタクで、今は欅坂にお熱らしい。話によると、彼の推しメンは数年前にグループから卒業して芸能界から姿を消した。ところが最近インスタを始めたらしく、インスタライブで顔出し生放送をしているとのこと。
つまり、死んだはずのアイドルが復活したのだ。彼は相当複雑な心境だっただろう。今まで何度も死を目の当たりにし、それでも強く生きてきた。そんな中、たどり着いたインスタグラムという名の秘境で、彼は死んだはずの女性の幻を見る。
初めは嬉しかったに違いない。永遠の別れを誓ったはずの女性に再び出会えたのだから。しかし彼は考える。彼女は本当に生きているのだろうか?もしかすると彼女は亡霊ではないか?もしそうなら、いつまで彼女と共に過ごすことができるのだろう…。また会えなくなってしまったら…。
そう、彼は二度目の「死」を迎えなければならなくなったのだ。いつ死ぬかわからないし、死なないかもしれない。彼女がふとインスタの更新を止めてしまえば死んでしまうし、気まぐれの投稿で復活する。あるかも分からない投稿を待ち続ける。そんな不安定な存在と一生付き添わなければいけない。
生き地獄。
そんな彼の話を聞いたにもかかわらず、私はあらぬことを考えてしまった。禁断の扉を開けてしまった。
『もしかしたら、生きているんじゃ… 』
気がついたときには、Twitterで「彼女」の名前を検索した。すると、どうだろう。大人になった彼女の姿が。芸能活動を続けている元メンバーのTwitter上に、数年に一回登場していたらしい。そこで満足していれば良かったのだが…
なんと、彼女もあの「秘境」に、インスタグラムに、しかも半年前からいることが発覚した。おそるおそる覗いてみると、投稿は0件。プロフ欄曰く、「元気なことを伝えたいだけだから、ストーリーのみ更新する」とのこと。
ここまで来てようやく気づいた。推しメン卒業と同時にアイドルオタクを辞められたことが幸せだったことに。これからの私の人生も、友人と同じ道を辿ることになったりして…
さて、私もまた死者の亡霊に囚われる愚か者になってしまうのか。
ちなみに彼女のインスタはまだフォローしていない。